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福岡地方裁判所小倉支部 昭和61年(ワ)838号 判決

原告

内田和夫

外十六名

右原告ら訴訟代理人弁護士

石井将

服部弘昭

市川俊司

谷川宮太郎

被告

日本国有鉄道清算事業団

右代表者理事長

石月昭二

右訴訟代理人弁護士

中野昌治

右指定代理人

荒上征彦

利光寛

川田守

滝口富夫

増元明良

内田勝義

主文

一  原告内田和夫、同梶原幸雄と被告との間において、日本国有鉄道が同原告らに対して昭和六一年二月一日付けで発令した減給三か月一〇分の一の各処分がいずれも無効であることを確認する。

二  原告福本栄司、同田中勇、同門田潤、同棚部直良、同木下勝則、同内山正則、同中田清一、同下田啓介、同小鶴道弘、同馬渡勝信、同福田博幸と被告との間において、日本国有鉄道が同原告らに対して昭和六一年二月一日付けで発令した各戒告処分がいずれも無効であることを確認する。

三  原告新屋敷浩二、同竹内俊一、同山下広幸、同戸高広美と被告との間において、日本国有鉄道が同原告らに対して昭和六一年二月一日付けで発令した減給三か月一〇分の一の各処分がいずれも無効であることを確認する。

四  被告は、原告内田和夫に対し金一三万七七四五円、同梶原幸雄に対し金一六万七六一八円、同福本栄司に対し二万三五六四円、同田中勇に対し金二万四五〇〇円、同門田潤に対し金二万三五三四円、同棚部直良に対し金二万四四三四円、同木下勝則に対し金二万二八二二円、同内山正則に対し金二万三三五八円、同中田清一に対し金二万二八七二円、同下田啓介に対し金二万二八一〇円、同小鶴道弘に対し金二万二五八四円、同馬渡勝信に対し金二万二五六二円、同福田博幸に対し金二万二五七八円、同新屋敷浩二に対し金八万八五三一円、同竹内俊一に対し金九万一五七六円、同山下広幸に対し金八万五六八五円、同戸高広美に対し金八万四八二二円、及び右各金員に対する昭和六二年一〇月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

五  原告らのその余の請求を棄却する。

六  訴訟費用は、これを一〇分し、その四を原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。

七  この判決は、第四項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  主文第一項と同旨

2  主文第二項と同旨

3  主文第三項と同旨

4  被告は、原告らに対し、別紙損害金目録中の「請求金合計額」欄記載の各金額及び右各金員に対する昭和六二年一〇月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

5  訴訟費用は、被告の負担とする。

6  4につき仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

(本案前の答弁)

1 原告らの請求の趣旨第1ないし3項の各請求をいずれも却下する。

2 訴訟費用は、原告らの負担とする。

(本案の答弁)

1 原告らの請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は、原告らの負担とする。

3 仮執行免脱宣言

第二当事者の主張

(本案前)

一  本案前の抗弁(請求の趣旨第1ないし3項に対して)

紛争を抜本的に解決するには、請求の趣旨第1ないし3項の各懲戒処分無効確認請求によらずとも、現在の給付の訴えである請求の趣旨第4項の損害賠償請求をもって十分である。また、原告らのうち、九州旅客鉄道株式会社(以下「JR九州」という。)に採用された者は、被告との間の継続的雇用関係がないため、本件各無効確認請求によっても経済的不利益を回復する余地はない。更に、昭和天皇の崩御に伴う国家公務員等の懲戒免除に関する政令(平成元年政令第二九号)により、原告らの受けた減給又は戒告の懲戒処分はその懲戒が免除されている。しかも、原告らのうち、その意思によりJR九州への就職を希望しなかった者のほかは皆JR九州に採用されており、本件各懲戒処分は、原告らのJR九州への採用拒否に連なっていない。

よって、請求の趣旨第1ないし3項の懲戒処分無効確認請求は、いずれも確認の利益がない。

二  本案前の抗弁に対する反論

争う。本件の各懲戒処分による不利益は、本訴での請求分にとどまらず、退職時まで回復することはなく、退職金、年金にも重大な影響を及ぼす。履歴書にも処分歴が記載され、JR社員への採用拒否という重大な不利益にもつながるものである。

(本案)

一  原告らの主張

1 原告らは、いずれも日本国有鉄道改革法一五条、同附則二項、日本国有鉄道清算事業団附則二条により被告に移行する前の日本国有鉄道(以下「国鉄」という。)の職員であって、同目録(一)及び(二)記載の原告らは直方車掌区に、同目録(三)記載の原告らは門司駅にそれぞれ勤務する者である。

2 原告らは、いずれも国鉄労働組合(以下「国労」という。)の組合員であり、別紙原告目録(一)及び(二)記載の原告らは、国労門司地方本部の北九州支部直方車掌区分会に、同目録(三)記載の原告らは、同支部門司・門司港駅分会(処分時門司駅分会)に所属する。

3 (別紙原告目録(一)(略)記載の原告らに対する処分)

(一) 懲戒処分の内容

国鉄は、昭和六一年二月一日付けで、別紙原告目録(一)記載の原告ら(以下「原告内田・同梶原」と、各原告を「原告内田」「同梶原」という。)に対し、減給三か月一〇分の一の各処分(以下「減給処分(一)という。)を発令した。

(二) 懲戒事由

被告は、国鉄直方車掌区長竹原正雄(以下「竹原区長」という。)が、昭和六〇年一〇月三日、右原告らが氏名札を着用しなかったため、無期限の乗務停止、予備勤務を命じ、原告梶原には同月七日から、同内田には同月八日から会議室での「教育」の受講を命じた(以下「受講命令」という。)が、右原告らが、業務命令に違反し、原告梶原は同月九日まで、同内田は同月一〇日までの各三日間、予備勤務として予備車掌の待機室にいて、会議室での受講を拒否したのが懲戒事由であると主張する。

(三) 請求の趣旨第1項について

よって、原告内田・同梶原は、被告に対し、国鉄が昭和六一年二月一日に発令した減給処分(一)がいずれも無効であることの確認を求める。

(四) 請求の趣旨第4項について

(1) 違法行為

竹原区長のした前記(二)の受講命令及びこれに違反したとしてなされた減給処分(一)は、いずれも違法である。

まず、受講命令の契機となった氏名札の着用は、組合と協議することなく一方的に業務命令で強制することはできない。まして、氏名札の不着用を理由に業務命令によって、無期限に乗務を停止し、そのうえ会議室に閉じ込めて就業規則の筆写などの嫌がらせといえる作業を強要し得るものではないし、就業規則上の根拠も不明確である。

更に、職場内教育の受講を命ずる業務命令にしても、国鉄の就業規則が規定する「教育訓練」とは、人格の知識、技能の向上と完成に寄与するものであって、一定の計画に基づき教材、講師等を配備配置して行うものとされるところ、原告内田・同梶原に強要された受講命令による「教育」は、氏名札不着用の是正教育とは関連がなく、かつ、当初からカリキュラムが予定されていたものではなく、教育期間も無期限とされており、右「教育訓練」には当たらない。

しかも、右原告らが受講拒否後に、受講命令に従って受講させられた本件「教育」の実体は、

〈1〉 国鉄は、右原告らに会議室で指導教育する旨を伝えただけで、原告らが説明を求めても、回答せずに強行した

〈2〉 朝、点呼終了後、右原告らが会議室に入室すると、行実行男指導助役(以下「行実助役」という。)が黒板に「就業規則何条から何条まで筆写」と書いてそれを指示する

〈3〉 助役の指示の後、右原告らのみが会議室にとどまって、就業規則の筆写や企画商品の筆写に従事する

〈4〉 区長、助役らの講義が時折行われる(但し、国鉄改革問題に関する雑談が主である)

〈5〉 時折右原告らに反省文の提出が求められる

〈6〉 会議室に在室している右原告らは、食事時間とトイレのとき以外会議室から一歩も出ることを許されない

〈7〉 他の職員は、会議室に入室することはできない

というものであり、全く「教育」ではなく、単に氏名札不着用職員への「見せしめ」「いじめ」「人権侵害」を内容とするものであった。

右原告らは、本件「教育」を、監禁状態のもとで実質二二日間続けられた。

結局、右原告らに対してなされた受講命令は違法であり、それに違反しているとしてなされた減給処分(一)も違法である。

また、受講命令は、右のような無意味、無内容なもので、業務との関連性を欠いており、これを受けないでも業務阻害になるわけではないという事情に照らせば、減給処分(一)は明らかに懲戒権の濫用で無効である。

(2) 帰責事由

国鉄(又は、被用者である処分をした国鉄九州総局長、受講命令を出した竹原区長)は、受講命令や減給処分(一)が違法であることを知っていたし、又は、それらの有効性判断について慎重な検討をなさずに発令するという過失があった。

(3) 財産的損害

原告内田・同梶原は、減給処分(一)により、別紙損害金目録(一)中「賃金カット」「減給」「年度末手当カット」「六一年四月期昇給一号減」欄(略)記載のとおり経済的不利益を受けた。右処分は無効であるから、同原告らは、同目録中「賃金カット等合計額」欄記載の各金額のとおり財産的損害を被った。

(4) 精神的損害

原告内田・同梶原は、右(1)のとおりのほか、減給処分(一)により名誉を毀損され、著しい精神的損害を被り、右苦痛は別紙損害金目録(一)中「慰謝料額」欄記載の金額をもって償われるべきである。

(5) よって、原告内田・同梶原は、被告に対し、不法行為に基づく損害賠償請求として、別紙損害金目録(一)中「請求金合計額」欄記載の各金員、及び右各金員に対する原告ら提出の昭和六二年一〇月二〇日付け準備書面が被告に送達された日の翌日である同月二一日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

4 (別紙原告目録(二)(略)記載の原告らに対する処分)

(一) 懲戒処分の内容

国鉄は、昭和六一年二月一日付けで、別紙原告目録(二)記載の原告ら(以下「原告福本ら」という。)に対して各戒告処分(以下「本件戒告」という。)を発令した。

(二) 懲戒事由

被告は、竹原区長が昭和六〇年九月二四日、予備勤務の原告福本らに対し午後一時から直方車掌区職員専用自動車置場周辺の除草作業を命じた(以下「除草命令」という。)が、同原告らが業務命令に違反し、同日午後一時から午後二時四〇分までの間、除草作業を拒否したのが懲戒事由であると主張する。

(三) 請求の趣旨第2項について

よって、原告福本らは、被告に対し、国鉄が昭和六一年二月一日に発令した本件戒告がいずれも無効であることの確認を求める。

(四) 請求の趣旨第4項について

(1) 違法行為

原告福本らは、車掌の予備勤務であったのだから、除草作業の業務命令は、労働契約で合意した職務外の事項につき発せられたものである。国鉄の就業規則二七条は、所属上長の指示に無定量、無条件に従うべきことを定めたものではない。しかも、直方車掌区では勿論、他の区においても、車掌に除草を行わせるのは、前例のないものであった。

また、右原告らが除草命令を受けた場所付近は、アスファルトないし砂利舗装がなされ、道路との境に雑草が少し茂っていたにすぎず、そのままでも駐車場の利用に何ら支障がなく、車掌区の業務遂行に除草は不要であった。

したがって、除草命令は、労働契約及び就業規則の根拠を有さず、また、その必要もない違法なものであるから、原告福本らには懲戒事由がない。

仮に、除草命令が有効であったとしても、

〈1〉 原告福本らには、車掌としての職制内容に照らして疑義があったために除草を拒否した。

〈2〉 駐車場の除草は、一方的に業務命令ですべきではなく、本来職員間の自発的協調的精神に基づいて行われるべきものであるのに、国鉄当局は、その場限りの思い付き的な発想で除草を通告し、業務命令として一方的かつ高圧的になされたものである。

〈3〉 本件除草拒否が、田口定人分会長(以下「田口分会長」という。)のもと国労の指示に基づいて行われたものであるにもかかわらず、同分会長やその他の分会役員に何らの懲戒処分が発令されておらず、不平等な処分である。

ことなどからすると、除草命令拒否を理由とする本件戒告は、懲戒権の濫用である。

原告福本らは、本件戒告により、定期昇給の際一号俸を減ぜられ、自動昇給においても半年間延伸され、退職金、年金の額、人材活用センターの配属、JR九州への採用などにも重大な影響を受けた。

更に、原告福本らも、昭和六二年一〇月七日から、氏名札不着用を理由として順次乗務停止(処分)を受け、本来の車掌業務に就く機会を奪われたばかりか、前記3(四)(1)と同様の「職場内教育」という名目でただひたすら苦痛を与えることを目的とした監禁教育に従事させられ、就業規則やパンフレットの筆写の苦役をそれぞれ一一日間にわたって強いられた。

(2) 帰責事由

国鉄(又は、被用者である処分をした国鉄九州総局長、除草命令をだした月野木周志助役(以下「月野木助役」という。)、受講命令をだした竹原区長)は、命令や本件戒告が違法であることを知っていたし、又はそれらの有効性判断について慎重な検討をなさずに発令するという過失があった。

(3) 財産的損害

原告福本らは、本件戒告により、別紙損害金目録(二)中「賃金カット」「ベア・差額」「六一年四月期昇給一号減」欄記載のとおり経済的不利益を受けた。右処分は無効であるから、同原告らは、同目録中「賃金カット等合計額」欄記載の各金額のとおり財産的損害を被った。

(4) 精神的損害

原告福本らは、右(1)のとおりのほか、本件戒告により名誉を毀損され、著しい精神的損害を被り、右苦痛は別紙損害金目録(二)中「慰謝料額」欄記載の金額をもって償われるべきである。

(5) よって、原告福本らは、被告に対し、不法行為に基づく損害賠償請求として、別紙損害金目録(二)中「請求金合計額」欄記載の各金員、及び右各金員に対する原告ら提出の昭和六二年一〇月二〇日付け準備書面が被告に送達された日の翌日である同月二一日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

5 (別紙原告目録(三)(略)の原告らに対する処分)

(一) 懲戒処分の内容

国鉄は、昭和六一年二月一日付けで、別紙原告目録(三)記載の原告ら(以下「原告新屋敷ら」という。)に対し、減給三か月一〇分の一の各処分(以下「減給処分(二)」という。)を発令した。

(二) 懲戒事由

被告は、原告新屋敷らが、昭和六〇年六月一三日、国労青年部の全国大会代議員選挙に際し、立候補者のためのオルグ活動を中継運転室等で行ったのが懲戒事由であると主張する。

(三) 請求の趣旨第3項について

よって、原告新屋敷らは、被告に対し、国鉄が昭和六一年二月一日付けで発令した減給処分(二)がいずれも無効であることの確認を求める。

(四) 請求の趣旨第4項について

(1) 違法行為

原告新屋敷らは、昭和六〇年六月一三日当日、いずれも非番公休であった。右原告らは、それを利用してオルグ活動をしたものであり、日常の組合活動においても、作業の合間や休憩時間に、管理者の妨害を受けることなく職場オルグ活動をすることはたまにある。右原告らの態様のオルグ活動は、国鉄の現業職場にあって、国労組合員がいる場合、三〇数年にわたって実施されてきたが、これが労使紛争の原因となったり、懲戒処分の事由とされた例は全国にない。本件の場合のみを処分することは、「平等取扱の原則」に反するから違法であるし、従来黙認してきた行為に対し処分を行うには、事前の十分な警告が必要なのに、国鉄はこれをしていない。

本件の場合、右原告らは、国労全国大会代議員選挙のためのオルグ活動を中継運転室(機関車の付替、列車組成、修繕車の入換え等を担当する部門の部屋)等に在室している組合員が手作業の間合い時間や休憩時間であることを確認し、作業に何ら支障を与えないよう配慮して、二ないし三分間、挨拶とビラ配布を実施したものである。右原告らが立ち入った第二てこ(九州に入ってくる列車の信号機、ポイントの切換えをするところ)、中継運転室、門司操車場下り運転室(九州に入ってくる列車の機関車の付替えをするところ、以下「門操下り」という。)は、いずれも最も重要な施設でもないし、非常に危険な場所でもない(現に、右詰所には、保険の勧誘、飲料販売、洋服の注文等外部の人間が多数入りこんでおり、同詰所に部外者以外の人間が入室したことが原因で事故が発生したことはない。)。

右原告らのオルグ活動の必要性、正当性と国鉄施設業務への支障のないことから考えると、右原告らのオルグ活動は、勤務時間中の組合活動として管理者の許容する範囲内にあったし、仮にそうでないとしても、原告新屋敷らの右行為の減給処分(二)は過重であって、減給処分(二)は懲戒権の濫用であり無効である。

原告新屋敷らは、減給処分(二)により、定期昇給の際一号俸を減ぜられ、自動昇給においても半年間延伸され、退職金、年金の額、人材活用センターの配属、JR九州への採用なども重大な影響を受けた。

(2) 帰責事由

国鉄(又は、被用者としての国鉄九州総局長)は、処分の決定過程において減給処分(二)の有効性の検討について所要の注意義務を怠り、前例のない処分をしたし、その狙いは国労の団結への攻撃や国労組合員を嫌悪してなした不当労働行為である。

(3) 財産的損害

原告新屋敷らは、国鉄の減給処分(二)により、別紙損害金目録(三)中「減給」「年度末手当カット」「六一年四月期昇給一号減」欄記載のとおり経済的不利益を受けた。右処分は無効であるから、同原告らは、右処分により、同目録中「減給等合計額」欄記載の各金額のとおり財産的損害を被った。

(4) 精神的損害

原告新屋敷らは、前記(1)のとおりのほか、減給処分(二)により名誉を毀損され、著しい精神的損害を被り、右苦痛は別紙損害金目録(三)中「慰謝料額」欄記載の金額をもって償われるべきである。

(5) よって、原告新屋敷らは、被告に対し、不法行為に基づく損害賠償請求として、別紙損害金目録(三)中「請求金合計額」欄記載の各金員、及び右各金員に対する原告ら提出の昭和六二年一〇月二〇日付け準備書面が被告に送達された日の翌日である同月二一日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  原告らの主張に対する認否反論

1 原告らの主張1の記載は認める。

2 同2の事実は知らない。

3(一) 同3(一)の事実は認める。

(二) 同3(二)の事実のうち、竹原区長の命じた乗務停止が無期限であることは否認し、その余を認める。

(三) 同3(三)は争う。

(四) 同3(四)は、(1)のうち、原告内田・同梶原が就業規則や企画商品の筆写を行ったこと、区長らの講義が行なわれたこと、同原告らに反省文を書かせたこと、及び(3)のうち、原告内田の六一年四月期昇給一号減が二五〇〇円であることを除き、原告内田・同梶原が減給処分(一)により別紙損害金目録(一)中「賃金カット」「減給」「年度末手当カット」「六一年四月期昇給一号減」欄各記載のとおり経済的不利益を受けたことは認める。その余の(四)の事実は否認する。原告内田の前同期昇給一号減は一二〇〇円である。

4 国鉄がした原告内田・同梶原に対する減給処分(一)は、次のとおり適法かつ有効である。

(一) 減給処分(一)に至る経緯

直方車掌区は、昭和六〇年九月末現在において、所要員一二二名に対して現在員一八二名という余剰人員過大区でありいわゆる予備勤務者が多く、職場規律は弛緩し、従来は予備勤務者の出勤時の点呼さえ行われていないようなところであった。しかし、数次の職場点検により、出勤時の点呼を確実に行うようにして職場規律を保持するとともに、職場環境の整備、整頓をとおして職場規律を改善して行くこととした。服装については、接客業務にあたる者として特に留意し、その励行に努めていたが、その基本である氏名札を着用しない者が多く、その着用を徹底させるようにとの指導に意識的に反抗する者があり、管理者において指導に苦慮していた。

(二) 違反行為

原告梶原・同内田は、直方車掌区の助役らが氏名札着用を指導したにもかかわらず、意識的にこれを無視する態度を示していたため、竹原区長は、原告らの主張3(二)のとおりの受講命令を出した。ところが右原告両名は、再三の右業務命令を無視して、同主張のとおりの期間「教育」が行なわれる会議室への入室を拒否し、教育に参加しなかった。

(三) 氏名札着用の適法性ないし有効性

(1) 氏名札を着用すべき根拠は、次のとおりである。すなわち、鉄道営業法二二条は、「旅客又ハ公衆ニ対スル職務ヲ行フ鉄道職員ハ一定ノ制服ヲ着スベシ」と規定している。これを受けて、国鉄の職員被服規程九条は、「服制の定めのある職員は、定められた服装を整えて作業しなければならない。」旨を規定し、その内容については、服装及び被服類取扱基準規程三条で被服類並びに腕章及びキ章の服制は服制表に定めるとおりとしたうえ、九州総局服制及び被服類取扱基準規定において、氏名札の制式、着用者及び着装方を具体的に定めている。

(2) また、接客業務に従事する者が氏名札を着用するのは、世間の常識であって(北九州市役所等の地方公共団体職員も着用している。)、直方車掌区以外の各車掌区において、氏名札はほぼ一〇〇パーセント着用されている。

(四) 受講命令の適法性

(1) 列車乗務員の訓練は、国鉄就業規則一〇七条により、職場内教育基準規程に則って実施され得る。現に、直方車掌区でも、人身事故、運転事故、勤務中の飲酒等の不祥事を起こした職員に対し、予備勤務に切り替えて指導教育を実施してきた。

(2) 原告内田・同梶原は、度重なる指示警告を無視して、氏名札の着用を拒否したため、訓告処分を受けたが、その後も依然として、助役らの指示に従わず反抗的な態度をとってきた。したがって、本人らの自覚を待つため自習させるか、勤務規律の基本である就業規則の筆記以外適当な教育方法はない。

就業規則を筆写させたのは、その内容を熟知させるためであり、フルムーン等のパンフレットを筆写させたのは、国鉄が実施しているサービス内容の詳細を理解させるためである。

指導訓練期間中は、昼食時の休憩や休息時間ももうけており、本人らの用件によっては室外に出ることも許可していた。

右原告らに対する指導教育期間は、当初一〇日間の予定であったが、それは同人らの受講態度が不良であったため延長したのであり、これは当然の措置である。

(3) 氏名札不着用のために、予備勤務に切り替えて指導教育を行ったのは、原告内田・同梶原だけでなく、ほかの職員に対しても順次これを行った。

(4) 受講命令は、適法であり、国鉄がこれを拒否した原告内田・同梶原に対し減給処分(一)をしたことは懲戒権の濫用にあたらないというべきである。

5(一) 原告らの主張4(一)の事実は認める。

(二) 同4(二)の事実は認める。

(三) 同4(三)は争う。

(四) 同4(四)は、(1)のうち、原告福本らの除草命令拒否は田口分会長の指示において行われたこと、同分会長はこれにより処分は受けていないこと、原告内田・同梶原が就業規則や企画商品の筆写を行ったこと(原告福本らではない。)、及び(3)のうち、原告福本らが本件戒告により別紙損害金目録(二)中「賃金カット」「ベア・差額」「六一年四月期昇給一号減」欄各記載のとおり経済的不利益を受けたこと(但し、原告内山(以下「原告内山」という。)の昭和六一年四月期昇給一号減が二六〇〇円であることを除く。)は認める。その余の(四)の事実は否認する。原告内山の前同期昇給一号減は一二〇〇円である。

6 国鉄がした原告福本らに対する本件戒告は、次のとおり適法かつ有効である。

(一) 本件戒告に至る経緯

原告福本らは、昭和五六年八月一〇日付けの「列車乗務員の労働時間等の取り扱いに関する協定」による協議により、昭和六〇年九月二四日、いわゆる「四半期訓練」を受けた。これに先立ち、直方車掌区においては、職場規律の保持、改善の一環として予備勤務時における訓練の合間を利用して残余の勤務時間を有効に活用することとし、車掌区勤務場所付近の除草作業を計画した。そして、原告らの予備勤務の支障にならず、かつ、突発的な欠員など急な事態に即座に対処できるように、除草作業の場所を右原告ら所属の直方車掌区職員専用自動車置場周辺に限定し、昭和六〇年九月二四日の朝の点呼の際、当日の予備勤務者一九名に対し、午前中の訓練後の午後一時より除草作業を実施する旨を伝達した。ところが、原告福本ら一六名は、再三にわたる除草命令にもかかわらず、これを拒否し、そのため、右原告ら全員で作業すれば、三〇分程度で終了する除草に二時間近く要した。

(二) 除草命令の適法性ないし有効性

(1) 国鉄就業規則二七条は、「職員は当該現業機関等に関する職制に定める主な職務内容に明示していない業務であっても所属上長の指示に従ってその達成に努めることとし、相協力して所属する現業機関等における業務の円滑な運営を期さなければならない。」旨を規定する。そして、労働者には使用者の業務命令につき誠実労働義務がある。したがって、除草命令は、適法有効である。

(2) 仮に、右就業規則二七条が車掌業務と関係のある業務に限られるとしても、車掌の業務は、車内の秩序維持を本務とし、車内の環境、衛生秩序を保持することもその職務内容であるから、車掌らが使用する駐車場周辺の除草、清掃も車掌業務に関し、管理者は、除草作業の業務命令を発し得る。また、除草作業は、これを行うことによってサービス精神を涵養し、職場秩序の環境面での整備と人的な精神面での基礎的修養となる。

(3) 本件除草作業は、実施日の二、三日前に直方運輸長より直方地区の各職場長に対して、それぞれ各職場周辺の除草作業を行うよう要請されて行われたものであるし、実施当日の始業点呼時に除草作業の説明もなされている。したがって、単なる思い付きに基づく業務命令ではない。

田口分会長を処分しなかったのは、原告福本らと異なり、本件当時勤務中ではなかったからである。

(4) 除草命令は、適法であり、国鉄がこれを拒否した原告福本らに対し本件戒告をしたことは懲戒権の濫用にあたらないというべきである。

7(一) 原告らの主張5(一)の事実は認める。

(二) 同5(二)の事実は認める。

(三) 同5(三)は争う。

(四) 同5(四)は、(1)のうち、原告新屋敷らが、主張の場所でビラの配付と選挙勧誘演説をしたこと、(3)のうち、原告戸高広美(以下「原告戸高」という。)の六一年四月期昇給一号減が一二〇〇円であることを除き、原告新屋敷らが減給処分(二)により別紙損害金目録(三)中「減給」「年度末手当カット」「六一年四月期昇給一号減」欄各記載のとおり経済的不利益を受けたことは認める。その余の(四)の事実は否認する。原告戸高の前同期昇給一号減は一一〇〇円である。

8 国鉄がした原告新屋敷らに対する減給処分(二)は、次のとおり適法かつ有効である。

(一) 減給処分(二)に至る経緯

門司駅においては、職場規律の総点検を実施し、その確立に努め、門司駅長らが職場内の組合活動を容認せず、制止するよう指示していた。それにもかかわらず、原告新屋敷らは、職場規律を無視し、国鉄の施設管理権の及ぶ門司駅構内において、施設管理者の許可を得ずに次のような活動を行って国鉄の業務を妨害した。

(1) 第二てこ下りにおいて、昭和六〇年六月一三日午前一〇時三七分ころから約三分間にわたり無断で入室し、管理者の再三の退去通告を無視して、分割民営化反対総決起集会のビラ、代議員選挙のビラを配布し、選挙勧誘の演説を行った。

(2) 中継運転室において、同日午前一〇時四五分ころから、管理者の再三の制止を無視し、助役、誘導操車担当らが執務中であるのに、休憩時間を待たずに約九分間、右(1)と同様の行為を行った。

(3) 門操下りにおいて、同日午前一一時〇〇分から約四分間にわたり前記(1)と同様の行為を行った。

(二) オルグ活動の悪質性

原告新屋敷らがオルグ活動を行った場所は、いずれも列車運行に直接関係した場所である。特に、第二てこ下りと門操下りは、列車運行上重要な中継点である。駅の信号機やポイントの切り換えに集中して作業を行ういわば駅の心臓部に相当する場所であり、関係者以外の無断入室が厳禁されている。また、門操下りにも、本件オルグ当時、助役と信号担当が執務中であり、管理者の三回の制止にかかわらず、信号担当において受信中の電話が聞き取れないような大きな声で演説をしていた。

(三) 原告らの処分歴等

原告戸高は現在までに三回、同竹内俊一(以下「同竹内」という。)は現在までに五回処分を受けている。同新屋敷浩二(以下「同新屋敷」という。)は現在までに六回も処分を受けているにもかかわらず、本裁判の係属中に至るまで管理職らに対し脅迫的な言動を行っている。

(四) 右(二)及び(三)からすれば、原告新屋敷らには懲戒事由があり、減給処分(二)も懲戒権を濫用したものではない。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるのでこれを引用する(略)。

理由

一  原告らの懲戒処分無効確認請求の適法性の有無

被告の本案前の抗弁につき判断する。

確かに、原告らは、指示の趣旨第4項において現在の給付の訴えを提起しており、本件各懲戒処分の無効確認は不必要ではないかと考える余地もある。しかしながら、原告らが本件各懲戒処分により、例えば、定期昇給の号俸が減ぜられ、昇給が延伸され事実は当事者間に争いがなく、その経済的不利益は、原告らが国鉄及び被告に在職する限りは継続するので、原告らの本件給付請求のみで事足りるとはいい難いし、それが更に他の退職金や年金にどのように影響するかも不明である。何らかの影響があった場合に、原告らに更に訴えの拡張や新訴の提起を強いるものも酷である。

また、前記政令二九号によって、昭和六四年一月七日より前の行為である原告らの本件各懲戒事由とされた行為について、原告らは、政令施行日である平成二年二月二四日以降将来に向って、本件各懲戒処分が免除された。しかしながら、弁論の全趣旨によれば、原告らのJR九州への採用決定は政令施行以前になされていることが認められ、原告らは、自分らの履歴書に本件各懲戒処分の事実が記載された状態で、JR九州による採否、更には採用後の職種ないし職級の決定をされたことになるし、むしろ、企業社会の常識によれば、本件各懲戒処分の存在が、再就職の可否、再就職先の職種、職級、給与額、退職金、年金、福利更生その他、原告らが関係する現在の種々の法律関係へ派生的に影響していることは容易に推認される。しかも、右政令の施行により、被告及びJR九州が、原告らに対して本件懲戒処分を受けなかったのと同じ待遇に回復する特段の措置をとったことを認めさせる証拠もない。

そうすると、原告らと被告の権利関係を請求の趣旨第4項の損害賠償請求のみで判断することは困難であり、紛争の抜本的解決のためには、本件各懲戒処分の無効確認を求めることが有効適切であって、訴訟経済にも合致するということができる。

よって、原告らの本件各確認請求は、確認の利益を有し適法である。

二  原告らの主張1の事実は当事者間に争いがない。

同2の事実は弁論の全趣旨により認められる。

三  原告内田・同梶原に対する懲戒処分の適法性の有無

1  原告らの主張3(一)の事実、及び同(二)のうち、竹原区長の命じた乗務停止が無期限であった点を除き当事者間に争いがない。

(証拠略)によれば、次の事実が認められる。

(一)  国鉄は、昭和五七、八年ころから、接客業務に携わり現金を取り扱う職務に従事すべき車掌が、氏名札を着用しないのは問題であるとして、車掌区に勤務する職員らに対し、氏名札を着用するように指導するようになった。国鉄直方車掌区においても、助役が点呼に際して口頭で、又は同区長が「服装の整正について」あるいは「氏名札の着用について」と題する張り紙を常時掲示して、氏名札を着用しないことは、国鉄服務規程ほか諸規程に違反し、かつ、国民の国鉄に対する信頼を失墜させるものであるとして、氏名札を着用するようにと、同区に勤務する職員らに繰り返し注意指導した。国労直方車掌区分会は、氏名札の着用を強制する国鉄の真の狙いは、行革推進と、国鉄の分割民営化に反対する国労を潰すことにある、と判断し、氏名札の着用を拒否することで申し合わせた。しかし、例えば、昭和五八年七月一六日には、氏名札を着用しない者に対しては、厳正に対処することを警告する旨を記述した区長名の張り紙が掲示されるなどの強い指導もあり、業務命令があれば、抵抗しつつも氏名札を着用するという方針に変更され、右掲示が出たころ以降は、直方車掌区に勤務する者の多くが氏名札を着用するようになった。その後、再び氏名札を着用しない者が増加したため、氏名札着用の指導は、次第に厳しくなった。昭和五九年一月四日には、氏名札着用の指示に違反した職員個々について昇給等の勤務成績に反映させることをあらためて警告する旨を記述した張り紙が掲示された。その後も依然として氏名札を着用しない者がいるため、国鉄は、昭和六〇年九月一三日、氏名札を着用しない直方車掌区勤務の職員二七名に対し、服装の整正違反を理由に訓告処分を発令した。それにもかかわらず、氏名札を着用しない者がいたため、竹原区長は、同月二四日、張り紙を掲示して、同月三〇日まで氏名札を着用しない者に対しては乗務を停止し指導訓練を実施する旨を警告した。翌一〇月一日になっても、直方車掌区では原告内田・同梶原を含む一三名の職員が氏名札を着用しないことから、竹原区長らは、右一三名を二名ずつ順次乗務停止とし、フロントマンとしての再認識をはかるための指導訓練を行う計画を立てた。そして、竹原区長は、同月二日、氏名札を直ちに着用しない者を乗務停止して指導訓練する旨の掲示を出した。当時氏名札を着用しなかった原告内田は、翌三日、同区の管理者から氏名札の不着用を理由に同月八日から予備勤務になる旨の通告を受け、所定交番(本務の通常勤務)の予定であったのが、八日以降予備勤務に変更された。また、もとともと予備勤務の予定であった原告梶原も、同日、圓入弘美助役(以下「圓入助役」という。)から、氏名札不着用を理由として、同月七日から予備勤務になる旨を通告された。直方車掌区分会では、右原告両名に対する右指導訓練に抗議するため、同月五日と翌六日職場集会を開き、同月七日から氏名札を外すこととした。その結果、同区に勤務する者のうち全体の九割の者が氏名札を外して抗議した。

(二)  同月七日午前八時三五分、大場謙二助役(以下「大場助役」という。)が、勤務助役室で、原告梶原に対し始業点呼を行い、点呼終了後は会議室(指導室)に行って指導助役の指導を受けるよう通告した。しかし、同原告は、同時四〇分ころから午前九時まで、同室にある勤務カウンターの前で、国労直方車掌区分会の田口分会長や森山ら同分会役員数名と一緒に「予備の業務内容は何か。」「今日の勤務は何か。」などと叫んで、会議室に入ろうとせず、他方、助役らは原告梶原らの問に答えなかった。大場助役及び白坂拓郎庶務助役(以下「白坂助役」という。)は、原告梶原に会議室に入るよう四、五回通告したが、同原告は、会議室には入らず、予備勤務とは本来乗務員控室に待機しているべきであると反論して、乗務員控室にいた。午前九時三〇分には、月野木助役が竹原区長立会のもとで、原告梶原に対し、会議室に入るよう説得し、それ以降午前一一時ころまでの間にも、月野木助役は、何度か説得を試みたが、同原告は、会議室には入らなかった。同日午後三時、守田忠司助役(以下「守田助役」という。)は、予備勤務者終了点呼を行い、原告梶原に対し、業務指示に従わなかったために午前八時四〇分から午後三時まで否認する旨を通告した。

(三)  同月八日午前八時三五分、守田助役は、勤務助役室において、原告内田・同梶原に対し始業点呼を行い、点呼終了後会議室で指導訓練を行うので会議室に入るように指示した。しかし、原告梶原は「待機予備に会議室で指導訓練があるんな。」と、同内田は「俺は待機予備ばい」とそれぞれ発言し、更に、同梶原は「待機予備ですから、そこにいます。」と言って、会議室には入らず、乗務員控室に入ってそこで待機する姿勢を示した。その後、守田助役及び行実助役が繰り返し会議室に入るよう指示したが、右原告両名は、これを拒否した。午後三時、圓入助役は、終業点呼を行ったうえ、原告内田・同梶原に対し、いずれも業務指示に従わなかったことを理由として午前八時三五分から午後三時まで否認する旨を通告した。

(四)  同月九日午前八時三五分、圓入助役が、原告内田・同梶原に対して始業点呼を行い、点呼終了後は指導訓練を行うため会議室に入るよう指示したが、右原告両名は会議室に入ろうとしないため、行実助役は、本件指示が業務命令であることを明確して会議室に入るよう通告した。これに対し、原告梶原が「なんで会議室に行かないかんとな、待機予備やき、そこに居るばい。」と、同内田が「そこに待機しちょくきな。」とそれぞれ発言し、右両名は、乗務員控室に行き長椅子に腰掛けた。その後、圓入助役らが何度か指示したにもかかわらず、右原告両名が拒否したため、行実助役は、「業務命令に従わないので、八時三八分以降否認する。」旨を通告した。右のように否認扱いとしたため、直方車掌区の助役らは、右原告両名に対し同日の終業点呼を行わなかった。

(五)  同月一一日午前八時三五分、圓入助役が、原告内田に対し始業点呼を行い、点呼終了後に指導訓練を行なうため会議室に入るよう指示した。これに対し、原告内田は、自分が予備待機であるから乗務員控室に待機する旨を述べたところ、行実助役は、業務命令であることを明確にして会議室に行くよう通告した。圓入助役は、数回業務命令として右指示を行なったが、依然として原告内田は、指示に従わず、乗務員控室に行こうとしたため、同助役は、右原告に対し、「業務命令に従わないので否認する。八時三八分。」と通告した。同日も、前日同様、否認扱いとしたため、原告内田に対して終業の点呼は行われなかった。

(六)  なお、原告内田・同梶原が、会議室への入室を拒否して乗務員控室に待機していた同月七日から一一日までの各三日間の勤務時間中、直方車掌区建物二階の区長室、第一会議室、廊下などに、九州総局営業部の坂口、営業総務部補佐、係長らがいて、玄関付近には二十数名程度立ち並び、バリケードを張り、同区に勤務する者以外は、右建物に入れない雰囲気であった。

(七)  原告内田・同梶原は、国労直方車掌区分会から、二四時間以上の否認はできない旨を告げられ、同月一二日から、会議室に入って竹原区長や同区の助役らによる指導訓練を受けることにした。しかし、右原告両名は、指導訓練期間中も右訓練終了後も、氏名札を着用しなかった。その後、昭和六一年三月、国労の直方車掌区分会大会では、氏名札を着用する旨の決議がなされた。

以上の事実が認められる。

2  ところで、本件当時施行されていた旧日本国有鉄道法(以下「旧国鉄法」という。)三二条は、職員はその職務を遂行するについて誠実に法令又は国鉄の定める業務上の規程に従わなければならない旨を規定し、同法三一条は、国鉄総裁は、職員が国鉄の定める業務上の規程に違反した場合、あるいは職務上の義務に違反し又は職務を怠った場合、懲戒処分として免職、停職、減給又は戒告の処分をすることができる旨を規定する。

そして、鉄道営業法二二条によると、旅客及び公衆に対する職務を行う鉄道係員は、一定の制服を着用しなければならないとされ、右にいう制服の様式は、鉄道事業者が決定できるものと解されている。国鉄においては、(証拠略)によると、昭和六〇年六月一一日付け総裁達第一二号の国鉄就業規則六条で、「職員は、服装を端正し、常に職員としての規律と品位を保つように努めなければならない。」(一項)、「職員は、総裁(又はその委任を受けた者)の定めるところに従って、制服等を着用し業務に従事しなければならない。」(二項)と、昭和三九年四月一日付け総裁達第一五〇号の職員服務規程九条で、「服制の定めのある職員は、定められた服装を整えて作業しなければならない。」と、同日付け総裁達第一五一号の安全の確保に関する規程一四条で、「従事員は、定められた服装を整えて作業しなければならない。」と同旨の規定を置いている。右制服のうち本件で問題となっている氏名札については、昭和四五年八月一日付け職資達第二号・改正同五六年一月二三日付け職資達第二号の制服及び被服類取扱基準規程三条・一六条にはキ章の服制を規定し、九総局達第一六号の九州総局服制及び被服類取扱基準規程三条は、同規程別表第一の被服表において、着用すべきキ章(名札)の制式・着用すべき者・着装方などを具体的に解説し、かつ図示し、着用すべき者として現業の接客業務に従事する職員と明記し、合わせて同一九条にもキ章等の着用について規定を置いていることが認められる。

更に、(証拠略)によると、国鉄就業規則は、職員は、所属上長の命令に服し、法規、令達に従わなければならない旨(三条)を規定すること、職場内教育基準規程は、管理者が所属職員の態度等を知しつするとともに、職員個々に対する教育訓練の必要性を把握して、有効適切なその実施に努めなければならないこと(二条)と、そのために職場訓練、講習会等各種の職場内教育が用意されていることが認められる。

右の各事実、及び先に1に認定した事実によれば、原告内田・同梶原は、直方車掌区に勤務する者であり、現業の接客業務に従事する職員であるところ、前記認定の各規程に基づいて、服務規程等の規則違反であることを指摘したうえで、同区の助役らが氏名札着用を命じたにもかかわらず、氏名札の着用を拒否したこと、そして、助役らが前記職場内教育基準規程に基づいて、教育訓練を行うことを命じたにもかかわず、右原告両名は会議室へ入らずこれを拒否したこと、助役らの右受講命令はいずれも、国鉄の就業規則等に根拠を有する適法な業務命令であると一応認めることができる。

したがって、原告内田・同梶原の両名につき、形式的には国鉄が定める業務上の規程に違反する行為が認められる。

3  しかしながら、懲戒権者が、当該職員を懲戒処分するか否か、また、どのような懲戒処分を選択するかを決定するに当たっては、懲戒事由に該当すると認められる所為の外部に表れた態様のほか右所為の原因、動機、状況、結果、当該職員のその前後における態度、懲戒処分等の処分歴、社会的環境、当該処分の影響等の諸事情を総合考慮したうえで、企業秩序の維持確保という見地から考えて、処分すべきか否か、どのような処分が相当かを判断しなければならない。尤も、右の判断については懲戒権者の裁量が認められるが、右裁量には、恣意にわたることを得ず、懲戒権者に懲戒権を付与した目的を逸脱して、処分すべきでないのに処分したり、あるいは、当該行為との対比において甚だしく均衡を失する等社会通念に照らして合理性を欠くものであってはならない。そして、懲戒権者の処分が右のような限度を超えて社会通念上著しく妥当を欠いた場合、それは懲戒権者の裁量権を濫用したと認められ、右処分は違法無効と判断すべきこととなる。

4  そこで、右の見地から本件を検討すると、前掲田口の証言、同原告内田及び同梶原の本人尋問の各結果並びに弁論の全趣旨によれば、受講命令の出される契機となった原告内田・同梶原が氏名札を着用しなかった動機は、氏名札を着用したからといって、仕事上の意味があるとは思えず、かつ、従前から氏名札を着用しなかったものを急に着用を強制してきたのに対し不満を抱いたことにあること、また、以前、室木線で車掌が氏名札を着用して業務に従事していたため、名前を記憶していた利用客に後日脅迫されるという事件が起きたり、珍奇な氏名であるために乗客に嘲笑されたなどの事例があったことによるものであり、受講命令の拒否は、予備勤務とはもともと突発事故等が起きたときのために車掌控室に待機している勤務をいうのであるから、会議室に入って指導訓練を受けるべき筋合のものではないと考えたことが認められる。しかしながら、氏名札の着用は、前記各規程で定められているからという規定上の理由だけでなく、実質的にも、利用客に役務を提供する車掌の性質上、必要である。なぜならば、例えば、車掌の職務上、利用客との間で金銭の授受、案内、切符扱い、物品の預かりその他の関係が生じた場合、当該車掌の氏名が特定できた方が利用客には便利であり、仮に車掌に不適当な行状があった場合に、その責任を問う際も容易であるし、他方、車掌自身も自分の氏名を表示することによって責任を自覚することになるからである。また、仮に氏名札を着用していたために生じ得る紛争があっても、それは個別に対処したり、別の効果的な措置を講ずれば済むことであり、氏名札不着用の理由とはなりえない。また、受講命令を拒否した理由の予備勤務についても、前掲月野木の証言及び原告福本栄司の本人尋問の結果によれば、本件当時、直方車掌区の所要人員は約一二〇名であるのに対し、職員は一八二名おり、暫定乗務の者(いわゆる余剰人員)が相当数いたため、突発事故等に備えて待機する本来的な意味の予備勤務を置いていなかったこと、教育訓練のための予備勤務の明文規定はないものの、昭和五五年一〇月の労働組合との協定で列車乗務等の指導訓練を行うための予備勤務を行い得ることを決定したことが認められるから、竹原区長が、指導訓練のために、原告内田・同梶原に対し、本来的意味の待機予備勤務とは区別される指導訓練のための予備勤務を命じたことも違法ではないと解される。

しかしながら、国鉄が原告内田・同梶原に対してなした減給処分(一)の直接の理由となっている受講命令の拒否については、右命令によって右原告両名に対してなされた教育訓練の具体的内容は後に四(2)(一)に認定したとおりの内容であって、結局、原告両名に苦痛を与える内容のないものであり、むしろ、これを受講命令で強制したこと自体が問題のあるところである。また、氏名札の不着用もそれが許されないことは前に述べたところであるが、氏名札の不着用者は直方車掌区にほかにも一〇名余りいた訳であるし、これに対する制裁として既に乗務停止がなされ、直接乗客に対する役務を提供できる状態から遠ざけられている(乗務手当がなくなるなど経済的不利益もあることは前掲月野木、同田口の証言により認められる。)ことも考慮されなければならない。更に、右受講命令は、後記五で判断される除草命令違反による処分や、七で判断されるオルグ活動に対する処分という一連の処分を含めて考えると、国鉄が、原告らの所属する国労を排斥しようとする一定の労務政策を背景として行なわれていると推認できること、原告両名につき、本件以前に旧国鉄法の定める懲戒処分の処分歴があったと認められないこと等の諸事情を総合考慮すると、国鉄が右原告両名に減給処分(一)といういわば重い処分を課することは、企業秩序を維持確保するためとしても、右原告両名の行為とそれによる影響とを対比してみると、甚だしく均衡を失し、社会通念上妥当性を欠き、国鉄が原告内田・同梶原に対してした減給処分(一)は、裁量権を逸脱したものとして、懲戒権の濫用といわなければならない。

5  よって、国鉄の原告内田・同梶原に対する減給処分(一)は、いずれも無効であるから、右原告両名の被告に対する処分無効確認の請求は、いずれも理由がある。

四  原告内田・同梶原に対する不法行為の成否

1  次に、原告ら主張3(四)について判断する。

右検討したとおり、国鉄が原告内田・同梶原に対し、氏名札の不着用を理由に指導訓練のため会議室への入室を業務命令として指示すること自体は適法である。問題は、実際に右原告両名に対して行なわれた指導訓練の内容がどのようなものであったかである。

2(一)  そこで、原告内田・同梶原が、昭和六〇年一二月一二日以降国鉄から受けた指導訓練の内容につき検討する。

まず、原告らの主張3(四)の(1)の事実のうち、原告内田・同梶原が就業規則や企画商品の筆写を行ったこと、区長らの講義が行われたこと、同原告らに対して反省文を書かせたことは、当事者間に争いがない。そして、(証拠略)の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(1) 直方車掌区では、氏名札不着用を続ける一三名に対し、各一〇日程度の指導訓練をすることを計画し、まず、原告内田・同梶原にこれを命じた。右原告両名が、昭和六〇年一〇月一二日に会議室に入って指導訓練を受けるに当たり、いつまで指導訓練が続けられるのか、また、どのような内容の指導教育をするのかについて、直方車掌区の助役らから何の説明もなかった。指導訓練期間中は、毎日午前八時三五分に始業点呼が行われ、その際、点呼助役は、右原告両名に対して氏名札を着用するよう指示し、同時三七、八分ころ右原告両名が会議室に入室して、指導訓練を受け、午後三時一〇分に予備勤務を終える、という日課であった。

(2) 一〇月一二日は、始業点呼の後、竹原区長の講義があり、その中で、「指導教育を行う趣旨は、原告内田・同梶原が国鉄職員として規則、規程を遵守してもらうためであること、国鉄監理委員会答申発表後は、国鉄としては後戻りできず、このような厳しい現実の中で生き延びるには、右遵守が必要であること、氏名札は客に安心して国鉄を利用してもらうために着用すべきであること、車掌が氏名札を着用しないのはフロントマンとしての資質を欠くこと、所属上長の命令を守ること」等を話し、月野木助役、及び行実助役も同日、氏名札を着用すべきこと、氏名札着用については規程で定められていること等を、午前中講義した。

(3) 一〇月一三日以降は、始業点呼の後、助役が原告内田・同梶原に対し、黒板に就業規則を何条から何条までと板書きして、国鉄の就業規則の筆記を指示して右原告両名に一枚ずつレポート用紙を渡し、右原告両名は、予備勤務時間中、受け取った用紙に就業規則を書き写すことが、主となった。一〇月一三日は就業規則の七条から二二条まで、翌一四日は二四条から二九条までと、三〇条から三二条までと、三五条、三九条を、同月一七日は四二条から四八条一〇項まで、一八日は四八条一一項、四九条と、六二条から六五条までを、二〇日には七〇条から七二条までと、七六条、七七条、及び八七条から九一条までを、二二日には一〇一条の一項から一七項までと、一〇二条から一〇六条まで、二三日には一〇一条から一〇六条までを、二六日には一条から六条まで、二九日には、服制及び被服類取扱基準規程三条、一六条、九州総局服制及び被服類取扱基準規程三条、一九条、職員服務規程九条、安全の確保に関する規程一四条、就業規則六条を、三〇日には就業規則三一条、三二条と、三九条から四一条まで、及び四八条、四九条を、三一日には職員服務規程一条から一七条までを、一一月二日には九州総局CTO運転取扱規程九条、二七条、四日には職員服務規程一条から一七条まで、五日には就業規則三条、職員服務規程一条、旧国鉄法三二条等を、六日には就業規則三条、職員服務規程一条、九条、旧国鉄法三二条等を、七日には就業規則の二四条から二七条までを、それぞれ筆記を命じられ、右原告両名は筆記した。そして、助役らが右原告両名に就業規則等の筆記を命ずるに際して、就業規則等の規定の趣旨・意味内容について説明することはなかった。

(4) また、原告内田・同梶原は、指導訓練として、企画商品の筆記も命じられた。すなわち、一〇月一九日には、東京G、東京割引、東京ディズニー、及び新幹線エコノミーを、同月二七日と翌二八日には九州Qキップと自由席特急回数券を、一一月六日にはフルムーン夫婦グリーンパスのパンフレットを、いずれも午前九時から予備勤務が終了する午後三時一〇分までの間、筆記させられた。

(5) なお、右(3)、(4)の就業規則等の筆記は、各条文を一回すれば良いが、原告内田・同梶原は、助役らから、「勤務すべき場所は会議室である。会議室からは食事とトイレのとき以外出てはいけない。」旨を指示されていたため、昼食のとき三〇分ほど車掌控室に移るのとトイレのとき以外は、筆記を終えた後でも、会議室の椅子に座っているしかなかった。そして、国労の組員(ママ)などが所用で会議室に出入りすることはたまにあったものの、右原告両名は、会議室を出たために勤務を否認扱いされることのないようにと考えて、自発的に出ることをせず、予備勤務時間が終了する前に助役が会議室に用紙を回収に来て、車掌控室に待機することを命ずるまで会議室にいた。また、右原告両名が会議室で筆記の自習をしている間、助役等の管理者は同室することはなく、たまに助役が会議室に顔を出して、「まだ名札を着ける気にならんか。」等と雑談をする程度であった。

(6) 一〇月一四日、原告内田・同梶原が圓入助役に年次休暇を申し込んだところ、「年休は教育期間中はやれない。しかし社会通念上の理由があればやる。」と拒否され、同月二〇日も行実助役から「社会通念上教育期間中の年休は認められない。」と拒否されたため、原告内田・同梶原が、家族を病院に連れていくことと法事を休暇の各事由として告げたところ、ようやく同月二四日に年次休暇がとれた。

(7) 一〇月二五日、原告内田・同梶原は、本件指導訓練についてレポートを書くことになったが、右原告両名は、被告の指導訓練に立腹し、いずれも氏名札着用と本件教育に対する抗議ないし不満を書き、反省した趣旨の内容を書かなかった。これに対し、翌二六日、行実助役は、「あんな非常識な事を書いては駄目や。まだ駄目や。就業規則についてああだこうだ書けばええのに。」旨を述べ、氏名札を着用すれば早急に会議室から出すことを示唆した。原告内田は、指導訓練の最終日(一一月一一日)にもレポートを書くことになったが、同様に抗議の内容を書いた。

(8) 行実助役は、一一月七日の正午過ぎに原告内田に対し同月一二日から暫定乗務させることを指示し、翌八日の始業点呼時には原告梶原に対し暫定乗務になることが確定した旨を告げた。その後一一月九日午後二時ころ、国労直方車掌区支部の松田の要請により、朝日新聞の記者が直方車掌区の国鉄総合庁舎にきて、会議室で指導訓練中の右原告両名を取材し、翌一〇日の朝日新聞朝刊に「国鉄これが指導訓練?!」の大見出しのもと、「名札つけなかった」→「一室に連日缶詰」→「規則・パンフ写させる」の白抜きの文と「『屈辱でいっぱい』怒る職員」の中見出しのほか、原告梶原が机に向かって就業規則の筆写等をしている後ろ姿の写真を掲げた数段抜きの記事が大きく掲載されて報道された。行実助役は、右原告両名に対し、同月一四日には総評弁護団が、一六日には共産党議員団が直方車掌区にくる旨の発言をした。原告梶原は、同月九日に乗務停止を終え、同内田は、同月一一日に乗務停止を終え、いずれも指導訓練を終了した。

(9) 竹原区長は、一〇月一日時点でも依然氏名札を着用しなかった原告内田・同梶原以外の一一名について、六名と五名の二組に分けて、前者を翌一一月中旬から一二月初旬まで、後者を翌年の一月中旬から同月末まで、いずれも実質約一〇日間にわたり、会議室に入室させずに、右原告両名と同じような内容の指導訓練を行った。

以上の事実が認められ、(証拠略)右認定に反する一一月八日に朝日新聞の取材があった旨の記述部分及び前掲田口の証言中「一一月一〇日の朝日新聞朝刊に記事が出たため、国鉄は、右原告両名に対する指導訓練を中止した」旨の部分は、(証拠略)により認められる取材の時期と対比して、行実助役が右原告両名に暫定乗務を通告した後に朝日新聞の記者による取材があり記事が掲載されたのであるから採用しない。また、前掲月野木の証言中の原告内田・同梶原を指導教育するにつき予めカリキュラムを定めた旨の部分は、原告内田・同梶原の本人尋問の各結果や右認定の教育内容と対比してにわかに採用できない。

(二)  既に前記三2で認定したように、職場内教育基準規程上、管理者は所属職員に対して教育訓練を実施できることになっているが、それはあくまでも有効適切な教育訓練でなければならず、しかも、実施に先立って、有効適切な訓練のための計画を立てなければならない。

これを本件についてみると、

(1) 氏名札不着用を続ける原告内田・同梶原に対して一〇月一二日に竹原区長らが氏名札着用の必要性等の講義を行ったり、右原告両名にレポートを書かせたりしたのは、一応有効適切であると是認できる。

(2) しかしながら、竹原区長らが、右原告両名に対し、就業規則等の規定についての解説をしたり講義することもなく、指導者不在の会議室で、二人に漫然と規程の文言を筆写させ、あるいは、企画商品とはいえフルムーン夫婦グリーンパスのパンフレットを筆写させることが、右原告両名をして氏名札を着用させ、車掌としての職務態度を向上させるための指導訓練として有効適切であると認めることはできない。しかも、右原告両名が指導訓練を受けることを命じられているとしても、区長、助役らが、会議室から出ることを制限したり、また、年次有給休暇は、労働基準法三九条により同条の要件さえ備われば労働者に当然に認められる権利であるのにこれを妨害する如き言動をしたり、苦痛を伴い個人の尊厳を尊重するとはいい難い就業規則等の規定の筆写を一六日間と、企画商品の筆写を四日間にわたって強制した行為は、右原告両名に対して懲罰を科する行為そのものにほかならず、懲戒処分を限定する旧国鉄法三一条に反するものである。

また、本件指導訓練に先立って、氏名札を着用しない一三名の職員に対し、順次、期間をおよそ一〇日間として教育訓練することを当初は計画していたようであるが、一〇日間と定めていた指導期間も、(人証略)によると、原告内田・同梶原は氏名札を着用することの不当性を確信し、氏名札着用の説得が極めて困難な状況であったにもかかわらず、本件指導期間の中途で、右原告両名が氏名札を着用するまでの不定期期限に変更し、その結果、休暇休日を除いて、原告内田に対しては一〇月一二日から一一月一一日まで連続二五日間、原告梶原に対しては一〇月一二日から一一月九日まで連続二三日間にも及んだことが認められ、指導期間の策定が恣意的である。

更に、原告内田・同梶原を指導教育するにつき、事前に有効適切な指導を実施するためのカリキュラムを策定した事実もない。

(三)  以上検討したところによれば、竹原区長らが原告内田・同梶原に対して行った指導訓練のうち、就業規則等の規定及び企画商品の筆写を、前示のような態様で長期にわたって強制した行為は、職場内教育基準規程が管理者に付与した指導教育権の行使とは認められず、違法に右原告らに侵害を与えた不法行為と認められる。

3  前記三で述べたとおり原告内田・同梶原に対する減給処分(一)は無効であり、国鉄(九州総局長)が右処分に基づいてした別紙損害金目録(一)記載の賃金カット等(額については当事者間に争いがない。)は、経済的利益の侵害であるから、被告はこれを賠償すべきである。

4  被告は、減給処分(一)や被用者である竹原区長らの前記四で認定した不法行為によって被った原告内田・同梶原の精神的肉体的苦痛の損害を慰謝するためには、一切の事情を考慮して、右原告ら一人につき、各六万円宛を支払うのが相当である。

5  よって、被告は、原告内田に対し一三万七七四五円を、同梶原に対し一六万七六一八円をそれぞれ賠償する義務がある。

五  原告福本らに対する懲戒処分の適法性の有無

1  原告らの主張4(一)及び(二)の事実は当事者間に争いがない。

(証拠略)によれば、次の事実が認められる。

(一)  国鉄では、職員に対し、四半期(三か月)に一回各四時間の割合で、閑散期を中心に勤務時間外に定期的に教育訓練を行うことになっていて、昭和五六年三月二〇日の列車乗組員の乗組基準の改正では、職場内教育として、閑散期を中心に予備要員の運用及び時間外勤務により訓練時間の拡大をはかり、訓練の内容の充実を図ることとなり、具体的には地方の実態に応じて地方対応機関で協議して右訓練を計画実施することとなった。これを受けて、直方車掌区においても、全車掌を対象として、新しい企画商品や業務内容の認識を図ることを内容とする四半期毎の列車乗務員訓練を、乗務が終了後の勤務時間外に行っていた。しかし、余剰人員がありながら、時間外に訓練を実施して超過勤務を生じさせるのは不適当であることから、国鉄九州総局と国労門司地方本部との間で、昭和六〇年九月からは、経費節減のため余剰人員を活用し、教育訓練の対象者を予備勤務として訓練を勤務時間中に行うことで合意した。そこで、同区では、庶務助役と指導助役らが中心になって、一日二〇名前後を割り振って、昭和六〇年九月二四日から同月三〇日までの一週間、各日朝九時から午後〇時三〇分まで、講習室において、列車乗務員訓練を行うことを計画し、その旨の掲示を職員掲示板に出した。

(二)  同月二一日、直方運輸長室が発案して、直方車掌区、直方駅、直方保線区、直方信号通信区の五現場の代表者が直方運輸長室に集まって話し合い、直方駅構内の直方車掌区庁舎周辺の駐車場を新たに区割りし、その駐車場の除草を実施することに決まった。これを受けて、直方車掌区では、右の割当てにより新たに利用が認められた直方車掌区庁舎前の車掌区職員用の駐車場の範囲を掲示して職員に知らせるとともに、訓練期間中の天候の良い日に、訓練終了後の残余の勤務時間を利用して職員に除草させることにした。

(三)  同月二四日の始業前、月野木助役は、直方車掌区の各管理者に、本日駐車場の除草をすることを指示した。そして、同日、四半期に一度の列車乗務員訓練が始まり、午前八時三五分、圓入助役は、勤務室で竹原区長立会のもと、予め訓練を行う旨を通知され、当日そのため予備勤務に指定されていた原告福本らを含む一九名に対し、始業点呼を行った。その際、同助役は、原告福本らほかに、四半期の訓練を行うため午前九時に講習室に入ることと、駐車場が新しく変わったので、訓練終了後、雨が止んでいたら駐車場の除草をする旨を伝えた。

(四)  同日午前九時から午後〇時二五分まで、原告福本らは、竹原区長の講義、行実助役の雨量計の説明を受け、次いで「新総裁に聞く」「交通災害ゼロをめざして」「フロントサービスのありかた」のビデオ上映があった。その後、行実助役は、再度原告福本らを含む一九名に対して、昼食後の午後一時から駐車場の除草をする旨を伝えた。

(五)  訓練後、原告福本らは、乗務員控室で昼食をとったが、その際、車掌職にある自分らが除草をすることに疑問を抱き、口々に右作業は不当であると言い合った。

(六)  同日午後一時、竹原区長と白坂助役は、乗務員控室で手待ちしている原告福本らに対し、「今から草取りをします。予備者は、下の方に来てください。」と指示した。これに対し、右原告らが昼食を終えた後に乗務員控室に来た田口分会長は、「予備者に草取りをさせるのは協定違反だ。どのような根拠に基づいてやらせるのか。駐車場の除草をするのはいい。但し、別の機会にしてくれ。お互いのことだから、自動車を持っている人に呼びかければ、皆喜んで協力するはずだ。」と反論し、原告福本らも抗議した。すると、竹原区長は、田口分会長の右の反抗的な行為は業務妨害であり、記録に留めるよう白坂助役に指示した。そして、竹原区長と白坂助役は乗務員控室を出て除草に行ったが、田口分会長は、除草は車掌の業務に当たらないから、業務命令として指示することはできないものと判断し、分会長の立場から、手待ちしている車掌らに対し、除草に参加する必要のない旨を伝えた。除草には、手待中の車掌のうち管理職試験合格者である池田と、管理職試験受験希望者の種田、及び勤務時間錯誤により乗務停止、予備勤務とされた中野の三名が参加したものの、原告福本らを含む一六名は、参加せず乗務員控室にそのまま待機していた。

(七)  白坂助役と月野木助役は、午後一時三四分ころ、乗務員控室に来て、業務命令として除草作業への参加を指示し(除草命令)、参加しない者の賃金をカットする旨を警告したが、原告福本らを含む一六名は無言で腰掛けたまま参加しようとしなかった。

(八)  白坂助役は、午後二時四八分、竹原区長と月野木助役の立会のもと、除草作業に参加せずに乗務員控室にいた原告福本らを含む一六名の氏名を読み上げ、業務指示に従わなかったことを理由として、午後一時五分から午後二時四五分までの一時間四〇分を否認する旨を通告した。そして、午後三時、終業点呼が行われて当日の予備勤務は終了した。

以上の事実が認められ、証人田口の証言中、右認定に反する供述部分は採用しない。

2  被告は、就業規則二七条によれば原告福本らに除草作業を業務命令として命じ得る旨を主張する。そこで、除草命令の適法性につき判断する。

(一)  確かに、(証拠略)によると、国鉄の就業規則二七条は、「職員は、当該現業機関等に関する職制に定める主な職務内容に明示していない業務であっても、所属上長の指示に従ってその達成に努めることとし、相協力して所属する現業機関等における業務の円滑な運営を期さなければならない。」と規定していることが認められる。右規定からすると、職制にない事項であっても、所属上長の指示さえあれば、当然に職員は職務として遂行する義務を課せられるようにもみえる。

しかしながら、使用者がある事項に関して業務命令を発し得るか否かは、一般に労働者との間の当該労働契約で労働者が労働力の処分を許容した範囲内の事項であるかどうかによって定まるものである。そして、個別交渉の余地が少ない大企業(国鉄もこれに含まれる。)にあっては、個々的に労働契約の中で右事項が明示されなくとも、労働条件を定型的に定める就業規則等の規定がある場合、右規定が労働基準法一五条の趣旨に反せず、その内容が合理的なものである限度において、当該労働契約の内容となるのであり、その範囲内であってはじめて使用者は業務命令を発し得るものと解される。したがって、就業規則二七条が、車掌職の原告福本らに除草作業を義務として課するについて合理的なものと認められのかどうかを検討する必要がある。

(二)  ところで、国鉄の職制とは、各職の職名、主な職務内容及び指揮命令系統をいい(就業規則二五条一項)、これは、現業機関等における各種の責任及び指揮命令系統を確立し、業務の円滑かつ能率的な運営を図ることを目的とする制度であり(同二四条)、職員は、職制の定めるところに従って、職務を遂行しなければならない(同二五条三項)とされる(〈証拠略〉)。

このように国鉄が職制を定めた趣旨からすれば、就業規則二七条は、いわば例外規定であって、確立された国鉄の職制において各職に対して予め定められた主な職務内容という日常業務の大枠から外れて一般的に他の職の職務まで従事する義務を認めたものと解することはできない。そうすると、右規定は、各職の主な職務内容につき、円滑かつ能率的に運営するうえで必要な関連性のあるいわば付随的な事項に限って、業務命令を発し得るとした規定と解すべきである。ただ、その場合であっても右規定の趣旨や、更には、使用者の恣意を可及的に排除しようとする労働基準法一五条の趣旨に鑑みるならば、それは、業務上の必要性があり、それによって被る職員の不利益等も少い場合にのみ命ぜられるべきである。

(三)  そこで、原告福本らについて問題となっている車掌職の職務内容をみると、専務車掌や車掌の主な職務内容は、(証拠略)によれば、旅客の接遇、案内及び車内用の乗車券類の販売等や、列車内の秩序維持及び列車内の営業等の指導、列車の運転に関する業務等主に列車内の旅客の利便を図ることに関する業務であることが認められる。

このような車掌職の主な職務内容から考えると、本件除草作業がその主な職務内容に含まれないことは明らかであって、その関連性ある付随的な事項に含まれるか否かを更に検討する必要がある。

そうすると、本件除草作業は、前記1(一)ないし(六)のとおり、原告福本らの所属する直方車掌区に新たに割り当てられた直方車掌区庁舎前の駐車場においてなされるもので、右原告らの職場環境の整備に役立つものである。また、原告福本らは、午前の列車乗務員訓練の終了後は、予備勤務であり、その予備勤務自体も、突発事故等に備える本来的な意味の予備勤務はほとんど考えられなかったのであるから、前記三4で認定した当時の直方車掌区の職員数と所要人数との関係、予備勤務者の現実の勤務内容等を考慮すると、単に就くべき仕事がないから何もしないで良いと当然に言い切れるかは問題である。そうであれば、車掌らが自分の職場環境を向上させる作業は、車掌職が各主な職務内容を円滑に遂行するのに、背後から一般的に資するという意味で、主な職務内容に付随すると拡大して解釈することもでないこともない。

(四)  しかしながら、右1に認定した事実、(人証略)の結果、並びに弁論の全趣旨によれば、本件に至るまで予備勤務の者に対し清掃や駐車場の除草等を命じた前例がなく、直方車掌区では後にも先にも本件だけであること、直方車掌区のみならず、他の車掌区においても、車掌らが駐車場など庁舎周辺の除草作業を行う慣行がなかったこと、そして、本件当時国鉄の管理者側と国労との間には分割民営化政策等をめぐり先鋭な対立があり、原告福本らの国労組合員側としてみれば、管理者の自己らに対する教育その他の干渉を厭がらせととらえがちな情況があったこと、かかる情況の中で、原告福本らは、除草作業が車掌職の仕事ではなく、他の職(用務掛)の職務に属すると考えて(〈証拠略〉)抗議したのに対し、竹原区長らは、除草作業に従事させる規定上の根拠や除草の必要性について何も説明しなかったため、同原告らは不審不満を抱いたこと、以上が本件除草拒否の動機ないし背景事情であること、しかも、右のとおり前例もなく疑義がありながら全く説明もせずに、竹原区長らは、原告福本らに対し、単に除草命令が業務命令であることを予告したのみで懲戒処分をしており、事前の警告が不足していること、更に、除草命令を拒否したことによる影響につき、本件除草作業の対象となったのは、原告福本らが利用する職員専用の駐車場であり、旅客ら等に対する影響はなかったし、右駐車場には、当時玉砂利が敷かれていて草はさほど茂っておらず、除草作業が切実に必要であったわけではなく、原告福本らが除草作業に参加しなかったために作業が数時間ないし数日に及んだというのではなく、一時間四〇分程度で終了しており、重大な結果は生じていないことが認められる。そして、原告福本らに旧国鉄法の定める処分歴があると認めさせる証拠もない。

(五)  右の諸事情により、原告福本らの除草命令拒否とそれによる影響を対比してみると、甚だしく均衡を失し、社会通念上妥当性を欠き、国鉄が原告福本らに対してした本件戒告は、裁量権を逸脱したものとして、懲戒権の濫用といわなければならない。

3  よって、国鉄の原告福本らに対する本件戒告は、いずれも無効であるから、右原告らの被告に対する処分無効確認の請求はいずれも理由がある。

六  原告福本らに対する不法行為の成否

1  原告らの主張4(四)は、(1)のうち原告福本らの除草命令拒否は田口分会長の指示において行なわれたこと、同分会長はこれにより処分は受けていないこと、原告内田、同梶原が就業規則や企画商品の筆写を行なったこと(原告福本らではない。)、及び(3)のうち原告福本らが本件戒告により別紙損害金目録(二)中「賃金カット」、「ベア・差額」「六一年四月期昇給一号減」欄各記載のとおり経済的不利益を受けたこと(但し、原告内山を除く。)は当事者間に争いがない。

竹原区長らが原告福本らに対してした除草命令は一応有効とも考えられるが、前記五のとおり、それを拒否したことを理由に国鉄が本件戒告をすることは懲戒権の濫用として無効であるから、原告福本らに違法な侵害を加えた不法行為と認められる。

また、就業規則や企画商品の筆写をさせることは、前記四のとおり違法な行為であるが、前記四2(一)(9)で認定した一一名に原告福本らが含まれているか否か判然としないことから、この点の精神的苦痛による損害はこれを認めるに足りる証拠はない。

なお、氏名札不着用による乗務停止については、前記三4の氏名札着用の必要性から考えて違法な行為とは考えられないので、精神的苦痛は問題とならない。

2  右で述べたとおり、国鉄(九州総局長)が原告福本らに対してした本件戒告は無効であるから、国鉄が右処分に基づいてした別紙損害金目録(二)記載の賃金カット等(額については、原告内山を除いて当事者間に争いがない。)は、違法な経済的利益の侵害であるから、被告はこれを賠償すべきである。

また、弁論の全趣旨によれば、原告内山は、昭和六一年四月期の定期昇給の際、本件戒告のために昇給一号俸落ち、その金額が一二〇〇円であることが認められるから、同原告が不法行為によって被った財産的損害は、同目録のうち同人に関する「賃金カット」「ベア・差額」欄記載の金額と一二〇〇円を合計した金額に相当することが認められる。

3  次に、原告福本らが受けた精神的損害について検討する。

右原告らは、本件戒告により名誉感情ないし人格的利益を害されて精神的損害を被っていることが認められ、これを慰謝するには、一切の事情を考慮して、原告福本らに、各二万円宛支払うのが相当である。

4  よって、被告は、原告福本らに対し二万三五六四円、同田中勇に対し二万四五〇〇円、同門田潤に対し二万三五三四円、同棚部直良に対し二万四四三四円、同木下勝則に対し二万二八二二円、同内山に対し二万三三五八円、同中田清一に対し二万二八七二円、同下田啓介に対し二万二八一〇円、同小鶴道弘に対し二万二五八四円、同馬渡勝信に対し二万二五六二円、同福田博幸に対し二万二五七八円をそれぞれ賠償する義務がある。

七  原告新屋敷らに対する懲戒処分の適法性の有無

1  原告らの主張(一)及び(二)の事実は当事者間に争いがない。

(証拠略)によれば、次の事実が認められる。

(一)  昭和六〇年六月七日、国労の全国大会代議員選挙が告示され、同月一九日右選挙の投票が行われることとなった。北九州支部の選挙区では、代議員定数八名に対し、一〇名が立候補した。原告新屋敷らのグループは、木原克彦、武末孝信、嶋国勝を擁立し、グループの中でオルグ隊を組んで門司地区を中心に、告示から投票までの正味一〇日間程度、オルグ活動をすることを計画した。オルグ活動は、事前に回る箇所を打ち合わせたうえで、オルグ隊の者の休日や非番のとき、あるいは勤務時間終了後を利用し、できるだけ労働者の休憩時間や間合い時間をはかって実施するように配慮した。

(二)  同月一三日午前九時三〇分ころ、オルグ活動のため、門司駅に勤務する原告新屋敷、原告山下広幸(以下「原告山下」という。)、原告竹内、久島の四名のほか、門司客貨車区から水流、松尾ら二、三名が、門司・門司港駅分会に集合した。そして、右オルグ隊は擁立候補者の木原らの趣意書やのぼり旗を準備して、午前一〇時ころ、自動車二台に分乗して第二てこに向かった。

(三)  オルグ隊が第二てこの駐車場に到着すると、門司・門司駅分会青年部長である原告竹内は、第二てこでは職員が連絡を扱ったり、継電盤を見たりしなければならず、また、狭いことも考慮して、原告新屋敷と同山下の二名だけが第二てこに上がり、かつ、演説をせずに趣意書のビラを配布するように指示した。その余の原告竹内らは、第二てこの駐車場に残り、午前一〇時三〇分過ぎころ、のぼり旗の準備をした。中継運転室にいた川上助役は、原告竹内らの自動車が第二てこの駐車場に着いて、のぼり旗を出していることを目撃し、直ちに、第二てこ下りにいた保田源治助役(以下「保田助役」という。)に電話し、その旨を伝えた。右電話中の同時三七分ころ、保田助役は、第二てこ上りでビラを配って、腕章をつけて第二てこ下りに入ってきた原告新屋敷と同山下が、第二てこ扱所職員(信号担当)に対し、「よろしくお願いします。」と言って、継電盤とアンプの間を移動して、それらに付いている幅約三〇センチメートルのテーブルの上にビラを置いて回るのに気付いた。同助役は、原告新屋敷と同山下に対し、「出て行け。」と怒鳴って注意したが、原告新屋敷は、口論はせず「分かっとるっちゃ。」と答えただけで、右原告らはビラの配布を続け、配布を終えた同時四〇分ころ、第二てこ下りを出て、第二てこ上りを通って駐車場に戻った。原告新屋敷と同山下がビラを配布している間、第二てこ下りには、信号担当が五名いて、いずれも国労の組合員であるが、誰もビラを手で受け取ろうとせず、会話もせずにそのまま普通に仕事を続けていた。また、原告新屋敷と同山下は、第二てこにのぼり旗を持ち込まなかった。

(四)  保田助役が原告山下らを追って、第二てこの駐車場に行くと、丁度川上助役も中継運転室から駐車場にきた。原告新屋敷らほかのうち何人かがのぼり旗を持っていると、同助役らが、「何かそののぼり旗は。止めなさい。」と制止したが、右原告らは、これを無視して中継運転室に向かった。なお、原告戸高は、原告竹内らのオルグ隊に入って一緒に回る計画はなかったが、たまたま右のように原告竹内らと保田助役らがやり合っていたところに出合った。それで、同原告は、代議員選挙の支援者が同じで、その班の班長でもあったことから、このころ以降、オルグ隊と一緒に付いてきた。

(五)  原告新屋敷らほかは、午前一〇時四五分ころ、中継運転室に着いた。そこには、助役一名(山田助役)と職員が一〇名前後おり、職員のうち二名以外は勤務時間中であったが、その者達も手待ち時間で椅子に座りお茶を飲んだり食事をとるなりして待機していた。原告竹内、同新屋敷及び同山下の三名は、のぼり旗を外に置き、挨拶して詰所内に入った。右三名のほかは外にいた。原告竹内らは、詰所内の国労組合員らにビラを配布し、原告竹内が演説を始めたところ、後を付いてきた保田助役と川上助役が、同時四六分ころ、「詰所に入っちゃならん。出て行け。オルグは許可しない。ちらしの配布は認めない。」と怒鳴った。そして、中継運転室の入り口付近で、助役らは、右原告らの前に立ちふさがった。保田助役と川上助役は、「許可なく国鉄の施設内で組合活動をしてはならない。」旨を、山田助役は、「自分は許可しないから直ちに出て行かねばならない。」旨を、原告竹内らに対し言った。原告竹内らは、「許可は必要ない。助役らの発言は組合活動を否定するものだ。」と言って抗議し、口論となった。同時四八分ころ、原告戸高も詰所に入ってきて、「選挙の関係でオルグに回っている。ちょっとの間だからいいじゃないですか。」と述べた。また、詰所で手待ちしていた組合員の中からは、外でオルグ活動を受けようか、との話しも出た。結局、国労北九州支部の青年部長をしている横山が、「五〇分になったら休憩時間に入るから、休憩になってから演説をすればいいじゃないか。」と言い、原告戸高もそれを勧めたので、原告竹内らは、いったん演説等オルグ活動を止めた。それにかかわらず、保田助役らは、「許可しないから、詰所から出て行け。」と怒鳴り、これに対して、原告竹内らは「あんた達は選挙妨害をした。上の方にあげて白黒つけるがいいんだな。」と言い返すなどして、口論となった。

(六)  同時五〇分になると他のオルグ隊も中継運転室に入り、原告竹内は、休憩時間に入ったので演説を再開して、出向、若年退職、一時帰休のいわゆる首切り三項目を反対する内容を訴えたが、保田助役らが「出て行け。オルグは認めない。」と怒鳴ったため、二、三分しか演説できず、同時五四分ころには原告竹内らは演説を止めて詰所を出た。

(七)  その後、原告新屋敷らほかは、門操下りに行った。門操下りには吉田助役のほか、信号担当の者が二名いたほか、下り運転の国労組員二名が手待ち時間で詰所の長椅子に座っていた。原告新屋敷らほかのオルグ隊は、原告戸高も含めて、午前一一時ころ、入口付近にのぼり旗を立てかけて、全員門操下りに入り、手待ちをしている組員に向かって通路側に一列に並んだ。そして、原告竹内が手待ち中の二人に向かって演説を始めた途端、後を付いてきた保田助役が、「詰所に入るのを許可しないので、直ちに退去しなさい。出て行け。オルグ活動は認めない。」などと何度も怒鳴ったので、原告竹内は、大きな声で演説を続けたものの、二、三分程度で止めた。そして、同時四分ころ、保田助役は、「退去命令に従わなかったのを現認しとくからな。」と言い、原告竹内は、「気の利いたことを言いなんな。現認でも何でもしときない。」と言い返した。そして、原告新屋敷らほかのオルグ隊は、門操下りを出た。この間、原告竹内らは、吉田助役や信号担当の二名に近づくことはなかった。

(八)  門操下りを出た原告新屋敷らほかは、門司操車場上り運転室に行った。そこには、助役ら管理者がいなかったので、同原告らは、数分間妨害なくオルグ活動をした。その後、オルグ隊は、組成運転の詰所に行った。そこは、浜野助役が管理していて、輸送本部は、同助役に対し、予め電話で、オルグ隊が来たら退去させるようにと指示連絡をしていた。しかし浜野助役は、詰所の職員が作業中でなかったので、従前の扱いに従い、「短時間で手短かに済ませるように。」と言って、原告竹内らのオルグ活動を認めた。それで、原告竹内は、四、五分間、妨害なく演説した。

以上の事実が認められ、前掲保田の証言及び原告本人尋問の結果中、右認定に反する部分は採用しない。

2  被告は、原告新屋敷らが、列車運行上重要な場所である第二てこ、中継運転室及び門操下りで、施設管理者の許可なくその制止を無視してオルグ活動を強行したので、国鉄が同原告らに対し減給処分(二)をした旨を主張するので、右1の事実を前提として、まず懲戒事由の存否につき検討する。

(一)  (証拠略)、原告新屋敷らが本件オルグ活動を行った昭和六〇年六月一三日は、原告竹内が公休、同山下が年休、同新屋敷が公休、同戸高が非番であったことが認められるから、原則的には、国鉄が原告新屋敷らが自由にオルグ活動を行うことを妨げることは許されない。しかし他方、それが企業の施設内で行うときは、企業秩序維持の観点から、使用者の企業施設に対する管理権の合理的な行使として是認される範囲内の規制による制約のあることも否定できない。したがって、労働者の表現の自由と使用者の施設管理権を調整する見地からすれば、単なる無許可という形式的違法のみをとらえて懲戒事由の存否を判断することはできないものの、原告新屋敷らの本件オルグ活動が職場秩序を乱したと認められない特別な事情がない限り、同原告らには懲戒事由が存すると解する。

(二)  右の見地から本件オルグ活動が職場秩序を乱したと認められないか否かを判断する。

(1) (証拠略)によると、第二てこには継電盤とアンプを配置し、ブザー音やランプの点灯によって列車の通過・入構を確認したり、ポイントの切換えを行い、あるいは、切換え等につき隣駅や指示担当者との連絡を行うこと、門操下りでは、第二てこ下りに指示連絡してポイントの切換えを行う一方、下り列車の機関車部分の付換えや発車等の構内作業を行うため、運転係や構内係が手待ち時間等に待機する場所であることが認められ、右事実によると、第二てこと門操下りでは信号系統が取り扱われているから、その職務を妨害することが重大な結果につながる一般的な可能性は否定できない。

しかしながら、第二てこに入った人数、ビラの配布方法、在室時間、動き、演説をしないなどの配慮、その場の国労組合員らの対応、仕事への影響等々、右1(三)に認定した事実からすれば、第二てこ内では、本件オルグ活動によって、具体的に職務を妨げていないことが認められる。また、門操下りでも、オルグ隊全員が入り、原告竹内が演説をしているものの、右1(七)に認定した演説の時間、その場にいた国労組合員の勤務状態、助役や信号担当者へ近づかないなどの配慮などを考慮すると、信号担当者らの職務に大きな支障は及ぼしていないことが認められる。

更に、前掲保田の証言、原告新屋敷及び同竹内の本人尋問の各結果によると、中継運転室とは、構内係や運転係等が列車ダイヤに従って、貨物の入換えなど外の現場で作業するにおいて、始業点呼時、休憩時間及び手待ち時間など作業を行わない間待機する場所であることが認められるほか、右1(五)及び(六)に認定した中継運転室に入ってから原告竹内が演説した時間、休憩時間までオルグ活動を中断するなどの配慮、その場にいた国労組合員らの勤務状態等を考慮すると、本件オルグ活動が中継運転室での職務に支障を及ぼすことはなかったことが認められる。

また、前掲原告新屋敷の本人尋問の結果によると、第二てこ、中継運転室及び門操下りには、数社の保険外交員、飲み物、洋服ほかの販売者がよく出入りしていることが認められる。

(2) (証拠略)、原告新屋敷ほかが配布したビラには、第四八回定期全国大会を成功させる仲間の総決起集会を六月一三日午後六時に開催することと、木原克彦と武末孝信が全国大会代議員に立候補するにあたっての意見、抱負を記載していること、原告新屋敷らほかが携えていたのぼり旗も右ビラとほぼ同趣旨の内容が記されていたことが認められるから、ビラ及びのぼり旗の内容は、適法な労働運動を超えて、業務の正常な運営を阻害するような内容でないと判断される。

(3) (人証略)によると、国労では、毎年六月に全国大会、八ないし九月に中央大会、一〇ないし一一月に支部大会、一二月に分会大会が開かれ、右各大会の代議員を選ぶために選挙が行われていること、右代議員選挙のため運動としては各職場を回って数分の間にビラを配布し、演説を行うという形式をとってきたこと、昭和五七年ころ以降国鉄では職場規律の確立、総点検が言われ、また、第二てこの入口には「勤務者以外許可なく入室を禁ずる。」旨の張り紙があるが、手待ち時間など勤務時間中に、オルグ隊が第二てこ中継運転室及び門操下りに入っても、管理者にオルグ活動を制止されたことはなかったこと、施設内でのオルグ活動を理由に懲戒処分をされたのは、本件以前は全国でも例がないこと、昭和六〇年六月一九日投票の本件代議員選挙の選挙運動期間中、本件オルグ活動以外にも、前後約一〇日にわたってオルグ活動が実施されたが、懲戒処分を受けたのは、原告新屋敷らのみであること、原告新屋敷らと一緒にオルグ活動を行った久島は懲戒処分を受けていないことが認められる(右認定に反する〈人証略〉部分は採用しない。)。右各事実によれば、適法か否かは格別(ママ)としても、当時の国鉄の職場では、勤務時間中に短かい時間に限ってオルグ活動を行うのを、慣行的に黙認してきたことを推認させるものであり(右1(八)に認定したように、組成運転にいた浜野助役は従前どおり黙認する態度をとっている。)そうすると、原告新屋敷らの行った本件オルグ活動は、従前からの形式によっており、国鉄における当時の企業秩序に反するということはできない。

(4) 原告新屋敷らは、第二てこ、中継運転室及び門操下りにおいて、大声で発言したり、口論しているが、それは、保田助役らが従前の管理者の対応と異なる態度を示し、演説等オルグ活動に支障を及ぼす行動に出たことから、これに誘発され対抗するためにとった態度である。それゆえに、原告新屋敷らの右言動をもって、職場秩序を乱したと評価するのは適当でない。

(5) むしろ、国鉄は、国労が従来の慣習の是正に反協力的であったり、また、国鉄再建策としての分割民営化にあくまで反対し、そのため抗議行動をしてきたことに対して差別的ともみられる強硬な姿勢をとり、国労の指令を守る国労組合員に対して懲戒処分をするほか、管理者らをしてその組合活動を実質的に妨害してきたことは(証拠略)によっても認められるし、(証拠略)からも推認できるところであって、原告新屋敷らに対する減給処分(二)もこの背景なしには評価しえない。

(三)  右(二)に検討したところを総合すると、原告新屋敷らは、第二てこ、中継運転室及び門操下りで本件オルグ活動を行うにあたって施設管理者の許可を得ていないものの、オルグ活動を行っても職場秩序を乱したと認められない特別の事情があるというべきである。

3  よって、原告新屋敷らには懲戒事由が認められず、国鉄の同原告らに対する減給処分(二)はいずれも無効である。

八  原告新屋敷らに対する不法行為の成否

1  原告らの主張5(四)について判断するに、(3)のうち原告新屋敷らが減給処分(二)により別紙損害金目録(三)(略)中「減給等合計額」欄記載のとおり経済的不利益を受けたこと(但し、原告戸高を除く。)は当事者間に争いがない。

国鉄が原告新屋敷らに対してした減給処分(二)は、前記七のとおり、懲戒権の濫用として無効であり、右処分と保田助役らによるオルグ活動の妨害は、原告新屋敷らに違法な侵害を加えた不法行為と認められる。

2  右で述べたとおり、国鉄(九州総局長)が原告新屋敷らに対してした減給処分(二)は無効であるから、国鉄が右処分に基づいてした別紙損害金目録(三)(略)記載の賃金カット等(額については、原告戸高を除いて当事者間に争いがない。)は、違法な経済的利益の侵害であるから、被告はこれを賠償すべきである。

また、弁論の全趣旨によれば、原告戸高は、昭和六一年四月期の定期昇給の際、本件戒告のために昇給一号俸落ち、その金額が一一〇〇円であることが認められるから、同原告が不法行為によって被った財産的損害は、同目録のうち同人に関する「減給」「年度末手当カット」欄記載の金額と一一〇〇円を合計した金額に相当することが認められる。

3  次に、原告新屋敷らが受けた精神的損害について検討すると、減給処分(二)を受けたことやオルグ活動を妨害され名誉感情ないし人格的利益を害されて精神的損害を被っていることが認められ、これを慰謝するには、一切の事情を考慮して、当初よりオルグ隊を組んで活動を行った原告新屋敷、同竹内及び同山下につきそれぞれ各四万円、途中からオルグ活動に加わった原告戸高につき三万円宛支払うのが相当である。

4  よって、被告は、原告新屋敷に対し八万八五三一円、同竹内に対し九万一五七六円、同山下に対し八万五六八五円、同戸高に対し八万四八二二円をそれぞれ賠償する義務がある。

九  本件各損害賠償請求を主張する原告ら提出の昭和六〇年一〇月二〇日付け準備書面が本件不法行為以後である前同日被告に送達されたことは明らかである。

一〇  結論

以上によれば、原告らの本訴請求は、各原告らと被告との間において、国鉄が同原告らに対して昭和六一年二月一日付けで発令した各懲戒処分がいずれも無効であることを確認すること、及び不法行為に基づく損害賠償請求として、被告に対して、原告内田が金一三万七七四五円、同梶原が金一六万七六一八円、同福本が金二万三五六四円、同田中勇が金二万四五〇〇円、同門田潤が金二万三五三四円、同棚部直良が金二万四四三四円、同木下勝則が金二万二八二二円、同内山が金二万三三五八円、同中田清一が金二万二八七二円、同下田啓介が金二万二八一〇円、同小鶴道弘が金二万二五八四円、同馬渡勝信が金二万二五六二円、同福田博幸が金二万二五七八円、同新屋敷が金八万八五三一円、同竹内が金九万一五七六円、同山下が金八万五六八五円、同戸高が金八万四八二二円、及び右各金員に対する昭和六二年一〇月二一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条本文、九三条一項本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用し、仮執行免脱の宣言は相当でないからこれを付さないこととして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 関野杜滋子 裁判官 有吉一郎 裁判官 櫻庭信之)

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